「カズオ イシグロ」と「湊かなえ」の本
☆長崎公式観光サイトより写真借用
遠い山なみの光 カズオ イシグロ
忘れられた巨人 カズオ イシグロ
花の鎖 湊 かなえ
物語の終わり 湊 かなえ
カズオ・イシグロ氏の小説を手に取る前に、かつてテレビドラマで「私を離さないで」を見ていました。
臓器提供の為だけに作られたクローン人間が、人里離れたある学園で教育され、集団生活を送っており、
ある年齢に達すると一時普通の社会で生活できるけれども、いつしか臓器提供を強いられて、2回3回と
提供していくうちにだんだんと弱っていき最後は死んでしまうという何とも救い難い内容のドラマでした。
あまりにも悲惨過ぎて見ていて暗い気持ちになってしまうのですが、何故か引き込まれて最後まで見て
しまいました。 結局作者は何を言いたかったのか、考え込んでしまいましたが、科学の進歩がもたらす
一線を越えてはいけないことをしたらどうなるのか、警鐘を鳴らしているのでしょうか。 それともクローン
人間にも普通の人と同様、友情や恋愛などの感情を持っているという事を言いたかったのでしょうか。
あるいは人間は何れ誰しも死ぬのだから、例え短い一生だとしても生きている間は彼らは懸命に生きている
のだから、価値の有る一生だと言いたかったのでしょうか。
「私を離さないで」が自分の中であまり消化しきれないうちに、イシグロ氏はノーベル賞を取って、その後
2冊の本を読みました。 「遠い山なみの光」は戦後の混沌期の長崎を舞台に、必死に生きていく女性の姿を
別の人物に投影して書かれた小説でしたが、不幸の中にも一筋の光を見出して懸命に生きていく女性の生き
様が淡々とした語り口調で描かれていました。 とても綺麗な文章で綴られており、イシグロ氏本人が日本語で
書いたのかと思ってしまいましたが、彼はイギリスに帰化しており、日本語が出来ないそうで、彼の本はすべて
翻訳ものだという事に気が付いて、翻訳の素晴らしさにも驚きました。
次に「忘れられた巨人」を読み始めましたが、今までのものとは全く違って、時はアーサー王亡き後、舞台は
イギリスで物語はファンタジックな雰囲気で書かれていました。 過去に犯した罪がシンボリッ クに描かれて
おり、それは国家間、夫婦間でも言える事であり、忘れ去ってしまう方が平和が保たれるかも知れないけれど、
決して忘れてはならず、もう一度罪を犯した過去をしっかりと振り返って、その罪を認識した上で生まれくる
意識、感情に目を向けるべきだという事がこの小説のテーマはないかと思いました。
その後に読んだ湊かなえさんの花の鎖は、「雪」「月」「花」が入った名前の女性を中心に書かれた小説で
それぞれが別々の物語として語られており、最後に一つに繋がるという物語でした。
湊かなえさんと言えばイヤミスの女王と言われる方で、イヤミスとは読後感に嫌な思いが残るミステリーという事
だそうで、例えばかつて読んだ「告白」はまさにその代表格で、自分の娘を生徒二人に殺された教師が、少年法に
よって守られる少年達を一番大事な人(母親)を殺すという状況に持っていく事によって、復讐を果たすという
想像を絶する復讐劇でした。 被害者側としては気持ち的には理解できるかも知れないけれど、この教師は目的を
達成した後に何が残ったのでしょうか。 これがイヤミスと言うものなのでしょうね。
その後に読んだ「物語の終わり」もこの「花の鎖」もイヤミスの小説ではなくて、「物語の終わり」は小説家を
夢見ている女性が書いた結末のない原稿が、北海道を旅する人々に次々に手渡されていき、それぞれが自分の
人生(物語)の進むべき方向性を見出していくという短編が、その原稿を通して一つになるという構成で、とても
面白かったです。